泰三子『ハコヅメ』

ほんとのところ、こういうモーニングがやりがちな、とある職業の大変な日常を描いて仄かな笑いと、過酷さで少しの同情を誘いつつ、ハートウォーミングなお情け頂戴で共感を煽るようなタイプの漫画って好きじゃないんですよね。それでも、Amazonレビューがそ…

吉次公介『日米安保体制史』

大体にして日米安保の歴史と言ったとき、その概念は多義的なのである。単純に安保を条約としての文言と捉えるのなら、歴史とはせいぜい成立と、改正以上の情報はありえない。しかし体制史と言うとき、恐らくそこには日米安保だけでなく、それによって成立し…

阿南友亮『中国はなぜ軍拡を続けるのか』

君塚先生と合わせて、2018年サントリー学芸賞。また慶應である。 阿南先生自体は、20世紀前半の中国の共産党と軍隊について研究されており、その内容は非常に実直で手堅い。サントリー学芸賞をとるにしても、そちらの堅い方かと思いきや、本書のような、やや…

有栖川有栖『月光ゲーム Yの悲劇 '88』

とある事情で読んだ。 新本格ブームの代表格のデビュー作。登山で出会った学生たちが、噴火で強制的にクローズドサークルに閉じ込められるなか、殺人事件に遭遇する話。 学生アリスシリーズは青春物であり、以下の書き出しのような文章を叙情的にしようとし…

レスリー・アン・ジョーンズ『フレディ・マーキュリー~孤独な道化~』

日本では十数年ぶりにクイーンが流行り、映画業界はボ・ラプの二匹目のドジョウがいないかと探しているなどと聞く。一方で当たり前の話だが、映画は多くの脚色を含む。私も観たとき、「ここ時系列おかしくない?」「え、ここなに?」なんてのが結構あり、じ…

舞城王太郎『好き好き大好き超愛してる』

わからん。分からんと思ってネットで感想拾って、私がネットになれば、すなわちネットで感想書いてる鋭い読みの人と同一化できるかと思ったのだが、拾えるのがせいぜい、「セカチュー」のアンチテーゼになってる素晴らしいアイロニーだという程度で、あんた…

長沼毅『死なないやつら 極限から考える「生命とは何か」』

本書の趣旨としては、なかなか死なない生物というのがいるというところが始まりだったはずだ。つまり、有名なのがクマムシだが、ネムリユスリカの幼虫は同様にトレハロースを体内に増やすことで乾燥状態でも生きられるようになってるし、あるいは微生物(バク…

舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日』

鷲崎健のヨルナイトリスナーならお馴染みだが、アイドルグループであるオッド・アイには、15年来のファンであるところの青木佑磨がラジオパーソナリティ鷲崎健に対する愛を歌った「ディスコ・ディテクティブ」という曲がある。本作と重なる部分は多いわけで…

遠藤乾『欧州複合危機 苦悶するEU、揺れる世界』

そろそろBrexitについて期限が迫ってきて、どこにどう着地させるのかが焦点が定まらない中、2016年の総選挙後に書かれた本書を読んでみると全く状況が変わってないことが分かる。 つまり欧州の統合には、根本に通貨の統合、人の移動の自由(難民問題とテロ問…

乙ひより『かわいいあなた』

Kindleで買ったはいいけど、容量の都合上、泣く泣く削除を繰り返していて、供養のために記録を残しておこうシリーズ第四段。 前エントリの長篇である水色シネマよりは、短篇集であるこちらの方が好みで、なんでかと思ったんだけど、キャラクターの性格に基づ…

乙ひより『水色シネマ』

Kindleで買ったはいいけど、容量の都合上、泣く泣く削除を繰り返していて、供養のために記録を残しておこうシリーズ第三段。 手癖で百合漫画を買い続けていた時期に購入したもので、読んだ記憶はあるのにこのために読み返すと内容が残っていなかった。 同級…

君塚直隆『立憲君主制の現在:日本人は「象徴天皇」を維持できるか』

今年のサントリー学芸賞。 天皇制のあり方についてホットなこの時期にタイムリーに出た、イギリス外交の専門家であり、日本随一の英国王室マニアとして名高い君塚先生による君主制本である。 自分はこうした事前情報があったので、そうだろうなと思ったこと…

押井守「シネマの神は細部に宿る」

つい最近出たジブリについて語った本と同じ形式だが、今度は押井守が偏愛するものが映画においてどう描かれたのか、を対談している。 映画について語らせたとき、この人の本領は発揮される。本当はあの呪術みたいな、トーンの高低もなく、ただ止めどなく出て…

古川勝久『北朝鮮 核の資金源「国連捜査」秘録』

もはや感想書く時期を逸したようにも思うが、むしろ、こういう北朝鮮問題が穏やかなタイミングであるからこそ、忘れてはいけない問題とも言える。 タイトル的に怪しげな本かと思いきや、国際政治学者界隈で評判が良い。それもそのはずで、著者の古川先生の、…

池内恵『【中東大混迷を解く】シーア派とスンニ派』

池内恵先生によるブックレット企画。企画から池内先生が積極的に関与しているらしく、二年前に同じく新潮選書から出た中東大混迷を解くシリーズの二冊目になる。その前にも新潮選書では出してるので実質的には三冊目である。 正直言うと、あまり触れたくない…

藤枝雅『飴色紅茶館歓談』

Kindleで買ったはいいけど、容量の都合上、泣く泣く削除を繰り返していて、供養のために記録を残しておこうシリーズパート2。 あまり読み込んでないので感想もないのだが、これは百合姫に連載されていた作品で、紅茶の喫茶店を営む芹穂と、そんな彼女に恋心…

久野遥子『甘木唯子のツノと愛』

Kindleで買ったはいいけど、容量の都合上、泣く泣く削除を繰り返していて、供養のために記録を残しておこうシリーズ第一段。 作者の久野遥子というひとは、岩井俊二の「ロトスコープアニメーションディレクター」を務めたのが名を売った仕事らしく、いわゆる…

加藤節『ジョン・ロック 神と人間との間』

加藤節という人は成蹊大で教えていたことから安倍晋三に指導し、彼は授業に出てなかったのに単位を取って卒業したと暴露して一躍政権批判側で祭り上げられることになったが、政治思想の業界ではジョン・ロック研究者として著名な人物である。ジョン・ロック…

筒井清忠『戦前日本のポピュリズム 日米戦争への道』

ポピュリズムが大ブームだった。 2016年頃、「2017年は政治リスクが多発する」みたいな言説が拡散したが、それは2016年の鏡像というか、Brexitとトランプ当選という想定外(と言っても世論調査では僅差だったはずだが)という事態を受けて、2017年も続くはずだ…

橋本卓典『捨てられる銀行』

金融庁が改革を進めているというのは、経済ニュースをある程度追っていれば簡単に入ってくる。Fintechを原因とした銀行不要論も合わさり、まるで銀行とは悪の親玉かのように取り扱われている。 本書は、金融庁改革の先頭に立つ森長官の考えについて、様々な…

樫木祐人『ハクメイとミコチ』

この世界は趣味で成立している。 本書は全長9cmの小人と、その他森に生きる動物たちの日常を描いた漫画である。基本的なストーリーは、小人のハクメイが同居するミコチを連れ回して、様々な住人と触れ合う日常の様が描かれている。そして、そこにいる彼らが…

押井守『誰も語らなかったジブリを語ろう』

高畑勲が死んで、あぁ素晴らしい演出家が死んだ、勿体ない、惜しい人を、だなんて呟きに一瞬だけ溢れた昨今。あなたたち、高畑作品なんて映画としては火垂るの墓くらいで、他は馬鹿にしてたんじゃないの、というもぞがゆさ(ぽんぽことか、ほーほけきょとか、…

永井均『ウィトゲンシュタイン入門』

ウィトゲンシュタインに入門してみた。 我らが(?)永井均先生による、入門本。哲学徒ではないので解釈の是非を問うつもりはないが、あの永井均の仕事、として考えるとオーソドックスな入門書になってるのではないかと思う。 冒頭の序章こそ、永井均個人が幼…

宮下雄一郎『フランス再興と国際秩序の構想 第二次世界大戦期の政治と外交』

本書は、サントリー学芸賞(2017年)を受賞した。政治学を専門にする人間にとってはトップに属する権威を有しており、受賞者は錚々たる面々が並んでいる。基本的には本格的な研究書に贈られるものであり、本書は慶應大学に提出された博士論文をベースとしてい…

ジョン・ケイ『金融に未来はあるかーーーウォール街、シティが認めたくなかった意外な真実』

原題はOther People's Money、他人の金(副題 金融の実際のビジネス)。邦題は無闇に扇情的でかつダサいと思うのだが、こういうタイトルをつけないと売れないという出版社の判断なのだろう。まるで洋楽のアルバムのダサい邦題みたいだ。 さて本書は、FTなどの…

学園祭学園『嘘』

この曲が初めて世に出たのは、声優の浅沼晋太郎さんが参加する劇団bpmの舞台「TRINITY」の主題歌としてだった。その後、「アコギな夜」という学園祭学園がトリを務めるイベントで生演奏が披露された後、10月のヨルナイトフェスにて手売りでの販売が始まった…

坂上秋成『TYPE-MOONの軌跡』

みんな大好き、TYPE-MOONのこれまでの歴史をまとめた本。とても簡単にまとめられており、Wiki +α程度の情報量が収められている。情緒不安定な奈須きのこが、武内崇ほか、様々な周りの大人にプッシュされてスターダムまで駆け上がっていく様子が描かれる一方…

グレアム・アリソン『米中戦争前夜 新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』

グレアム・アリソン『決定の本質』は名著だった。初版も第二版も読んだはずなのだが、初版を読んだのがはるか昔であまり違いについては言及できないものの、読んだときのドキドキワクワク感は忘れられない。どうしてキューバ危機はああいう形になったのか、…

小倉和夫、康仁徳『朝鮮半島 地政学クライシス 激動を読み解く政治経済シナリオ』

前回、ウォルツ、セーガン『核兵器の拡散』についてのエントリを書いてから、引き続き我が国の西方が騒がしいままである。 と言っても、ほとんどが我が国を飛び越してやり取りされているので、東西に挟まれて我が国はなすすべなく、手で頭を押さえてしゃがみ…

スコット・セーガン、ケネス・ウォルツ『核兵器の拡散』

最近、何やら我が国の西の方で、核兵器の話題が騒がしい。 ところで国際関係論の世界で核兵器の話題と言ったら、核抑止の話か、核拡散の話の二択に大別できる。しかし実質的には同じ話題かもしれない。 そもそも核についての話題は通常戦力とどう "質的" に…