押井守「シネマの神は細部に宿る」

つい最近出たジブリについて語った本と同じ形式だが、今度は押井守が偏愛するものが映画においてどう描かれたのか、を対談している。

映画について語らせたとき、この人の本領は発揮される。本当はあの呪術みたいな、トーンの高低もなく、ただ止めどなく出てくる情報と解釈に圧倒されるには、その肉声を聞いた方が良い。10年ほど前だったか、押井守のシネマ・シネマというラジオ番組が文化放送であり、アニラジ枠で流されていた。あちらは映画制作について毎回テーマを定めながら語るのだが、抜群に面白くて、聞き返すたびに惹き付けられるのだ(アシスタントが広橋涼で、初めてその情報を入手したとき、さすが広橋涼は懐が深いなどと思ったのだが、単に押井守の録音を流す前に要らんトークをするだけだった)。

中身は、様々なテーマについて、どの映画がそのテーマの描写が良かった・いまいちだった、ということを語るという内容で、映画そのものの本筋を知りたい人には向かない。

テーマは、動物、ファッション、ごはん、モンスター、携行武器、兵器、女優、男優、だが、冒頭が十八番の犬で、「バセットが出ている映画はもれなく観ているから」「そういう情報ルートがちゃんとある」から始まるのがまず面白い。そんなルートがこの世に存在するとは知らなかった。

押井守が記憶にあるけどタイトルとかキャスト、製作陣の名前が分からない部分を、映画ライターである渡辺麻紀が補助して対談が進む。映画の細部への着目が独特で、2001年宇宙の旅を「キューブリックの狙いは明らか。これは紛れもなく"食べる"映画です」という解釈・指摘もあれば、映画で出てくる銃がTPOに合ってることが大事だと歴史的なコンテクストから説明するし、戦車ではニセモノ戦車かどうかを足回りから判断して批判するし、でも椿三十郎の逆手斬りを褒めるときには「本当に逆手斬りのほうがいいのかどうか知らないけど」と言いながら絶賛する。解釈・歴史的な正しさ・演出の三パターンからの押井守の視点を楽しむ対談本であり、判断基準はバラバラな感じはあるけど、それはそれで、好き好きで。

シネマの神は細部に宿る

シネマの神は細部に宿る