舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日』

鷲崎健のヨルナイトリスナーならお馴染みだが、アイドルグループであるオッド・アイには、15年来のファンであるところの青木佑磨がラジオパーソナリティ鷲崎健に対する愛を歌った「ディスコ・ディテクティブ」という曲がある。本作と重なる部分は多いわけではないが、水曜深夜に生放送のラジオ(ニコ生)を一時間、メールテーマはなく、その場でパーソナリティーが喋った意味不明な言葉や支離滅裂な言動をマイルストーンにして、ひたすら脱線に次ぐ脱線、さっきまでこの話をしてたはずなのに、この言い回しをしてしまったがためにこの話題に移ってしまいました、という一分前が想像できない話題転換、そしてそれらを元にしたメールを募集する、解決編が用意されている。なんだったんだこの放送は、と思うが、この放送は、一貫して青木佑磨による愛がテーマである。彼の愛の充足のための時間と言ってもよい。

本書もおおむねそんな感じで、非常にスリップストリーム的である。SFかと思いきや、ミステリーになったり、結局オカルトのようでもあり、かようにあちこちにトンチキな展開と振れ幅の大きい話題たちが縦横無尽に繰り広げられている。それでいて、作品は、愛が主眼になっているのだ。それらの要素はひとつの物語に対して一貫している。これが大事だと思う。定期的に概念図が挟まるので、訳がわからなくなっても大丈夫、なんだけど、そもそも概念図が挟まる小説ってなに、っていうね。概念図だけ見ても当然わけがわからないけど、読み返してみると、これしかない、という図になっている。まさしく奇書である。

大仰な大風呂敷を広げて、何が言いたいの、というかんじもあるが、少なくともこれは、純文学の枠よりも普通にエンタメ小説として見たほうがマッピングしやすいと思う。つまり、なんとなく大量のギミック挟まってるし、予想外の展開の連続と、緻密に組み立てられた世界観と、大ボラ、そしてなんかよー分からんけどハッピーエンドになってよかったね、よかったね、という感想を抱かせられたら勝ちでは。

Kindle版はおすすめしない。文字をそのままスキャンしたな、という感じで読みづらい。

 

ディスコ探偵水曜日(上)(新潮文庫)

ディスコ探偵水曜日(上)(新潮文庫)