有栖川有栖『月光ゲーム Yの悲劇 '88』

とある事情で読んだ。

新本格ブームの代表格のデビュー作。登山で出会った学生たちが、噴火で強制的にクローズドサークルに閉じ込められるなか、殺人事件に遭遇する話。

学生アリスシリーズは青春物であり、以下の書き出しのような文章を叙情的にしようとしてクサくなる感じが鼻についたけど、それさえ除けばエラリークイーンに倣ったミステリということで、論理の積み上げが良かった。手掛かりがきちんと事件解決のための手掛かりとして機能して、無茶なクローズドサークルの中で無茶な殺人事件という感じは拭えないが、ミステリ部分は綺麗だった。

一方で、学生物なので青春ストーリーが挟まるが、こちらは17人いる登場人物が多くて、でキャラ立ちさせようとしてるのは分かるけど印象に残らないキャラクターも多く、またオカルトキャラとか変に二次元的なキャラ立ちしてる人物もいて、関係性が何が何やらとなってしまった。

 

大地がまた身を揺すった。浅い眠りは破られ、僕はむっくりと起き上がった。 寝袋にくるまった三つの人影は動かない。これしきの震動にはもう神経が慣れっこになってしまったのか、あるいは昼間の疲れが三人を抱きくるんでいるのか。死体置場に一人取り残されたような心細い気分になった。 そっとテントの扉布を押し分け、外の様子を窺ってみる。暗い。噴煙に隠れたか、月の光のひと雫も見えない。 山の頂に目をやる。よく判らないが、大きな忌まわしいものが吹き上がり、夜の海面に似た空に昇っていくのが感じられた。微かに降り注ぐ荒い灰。唇についた不快なそれを、僕はゆっくりと手の甲で拭った。

 

"月光ゲーム 江神シリーズ (創元推理文庫)"(有栖川 有栖 著) : http://a.co/2utwZK1