佐藤亜紀『1809─ナポレオン暗殺』

タイトルの通り、ナポレオンを暗殺しようとするウストリツキ公爵に巻き込まれた、仏軍工兵隊パスキ大尉の話ではあったが、一方で暗殺に関する話ではない。公爵と接触してしまったために、警察や、公爵の愛人等々と関係を持つことになってしまい、いくつかのコンフリクトを起こしながらナポレオン暗殺への関与を深めていく、、、という活劇もの。

どんな書評を読んでも誉められるポイントになるのはディティールの緻密さ。フランスの図書館で、私家版の日記を捗猟して当時の仏軍工兵について調査したとあって、その圧倒的な知識量には平伏するしかない。

一方で、解説で福田和也が人物造形を賞賛しているが、こちらはどうだろう。人間的な歪みも何もかも、出来すぎというか、作られた感じが強い。エンタメ小説なのだから仕方がない、と言われてしまえば言い返せないのだが、やや古い言葉で言えば中二的というか。主人公サイドの色男ぶりとか、ね。(小谷野敦ガンダムのノベライズみたいだと言っていたが、言い得て妙である)。活劇ものとして見るには、葛藤も、ピンチも少なく、ミステリーとして捉えるには謎が全面に出てこない。ナポレオン暗殺の動機や、ウストリツキ氏についてのバックグラウンドは最後に語られるものの、計画の杜撰さや、人間形成の単純さで肩透かしを食らってしまった。作り込みは良いのだけど、、、うーん。

 

1809―ナポレオン暗殺 (文春文庫)

1809―ナポレオン暗殺 (文春文庫)