ロバート・ジャーヴィス『複雑性と国際政治』

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やや補筆しました。

複雑性と国際政治―相互連関と意図されざる結果

複雑性と国際政治―相互連関と意図されざる結果

 

現代のアメリカにおける国際政治学は、1979年のウォルツの『国際政治の理論』をきっかけに変わったと言われる。それまで還元主義的だった国際政治学が、ミクロ経済的アプローチを導入することによって、国際システムという観点から語ることが出来るようになったからである。言い換えると、個別の国家について言及することだけでは不足で、いかに全体から語るのか、と言う話をしなくてはいけない、という主張である。こちらに書いたとおりである。

ケネス・ウォルツ『国際政治の理論』 - 読んだり聴いたりしたときに更新されるし、読んでも聴いてもないときにでも更新したいブログ

そしてそのアイデアは、その後の学者によって賛否両論、多くの議論が交わされた。(一番の典型が、ロバート・コヘインの『覇権後の国際政治経済学』である。

それに対して本書、『複雑性と国際政治』という名前だと解りづらいかもしれないのだが、原題は、System Effects。つまり、システムアプローチから国際政治理論は考えなおせるよね、という内容になっている。ウォルツも含めて、多くの国際システムの議論をまとめ直したが、ややタイムラグの後、大家・ジャーヴィスから、そうではない、より動態的な国際政治理論が構築できる、と提示しているのである。
システム・アプローチは本来、ウォルツの言うような構造=パワーバランス一点張りの議論ではなかったはずだ。サイバネティクス以来の伝統があるのに、或いは社会学ではルーマンみたいなのもいたはずなのだが、国際関係論ではウォルツのせいで限定した使われ方しかしていない。特にフィードバックをシステムという見地から国際政治学に導入するのとか、実はすごく大事なアイデアのはずなのだけど、なかなかアイデアばかりが持て余し気味になっている感じがすごくするのが勿体無い。90s以降のジャービスの仕事としてはすごく良い。ここからもう一段、踏み込めれば良かったのだが。

最近のジャーヴィスの仕事は流石に年齢も年齢でいまいち…とは思っていたが、しかし↓の古典的名著の再販にあたり、序言でかなり気合の入った現代へのアップデートをしてくれており、この爺さんまだまだ元気だ、なんて思わせてくれました。

Perception and Misperception in International Politics (Center for International Affairs, Harvard University)

Perception and Misperception in International Politics (Center for International Affairs, Harvard University)

 

 
ウォルツ以来の静態的、構造的国際政治理論で思考がストップしている人に特にオススメ。ただウォルツが如何に意義のある議論を展開したのか、その前提にそもそも殆どの人は乗ってないので、万人には薦められないのも事実だが。