古川勝久『北朝鮮 核の資金源「国連捜査」秘録』

もはや感想書く時期を逸したようにも思うが、むしろ、こういう北朝鮮問題が穏やかなタイミングであるからこそ、忘れてはいけない問題とも言える。

タイトル的に怪しげな本かと思いきや、国際政治学者界隈で評判が良い。それもそのはずで、著者の古川先生の、国連安全保障理事会北朝鮮制裁委員会・専門家パネルの経験が落とし込まれた至極全うな書籍、ルポルタージュである。

我々は2006年以来長らく、北朝鮮経済制裁をしてきた。こんなに厳しい制裁をしているのだからすぐに音を上げてもおかしくないのに、諦めるどころか、どんどん制裁を厳しくしてもそれでもやっていけている。また軍備は発展する一方である。なぜか。そこには様々な抜け穴があり、抜け穴に対して国連は無力であることも多々あるせいで、彼らはうまく生き永らえているのだ。

例えばご存知、中露のサポート、あるいは見て見ぬ振りがある。積極的に制裁違反をするのでなく、制裁はすべきという姿勢を見せつつ漠とした対応しか取らない。シリアが親露であるときには、中露はシリア向けの物資を擁護する。国連が認めない台湾を介してグローバル企業の振りをする。シリアが親露であるときには、中露はシリア向けの物資を擁護する。中東・アフリカはサービス込みでグローバル企業の顔をした北朝鮮民間企業から武器を買い、北朝鮮技術者は中露のみならず、東欧からも情報をとって技術の発展を図る。

こちらとて手をこまねいている訳ではない。世界中の企業に情報を取りに行き、押収品が軍事転用されているものか確認するためにミサイルの解体までしたという。しかしそれでも、全てが摘発されるわけではない。怪しいと解っていても、各国政府は、それは中露だけでなく、ヨーロッパも、あるいは北朝鮮問題に喫緊で対応しなくてはならないはずの日本ですら、協力的ではないのだ。面子の問題、多忙による後回し、法整備が間に合わず、官僚の形式主義・先例踏襲主義によってむざむざ見過ごしたという例もある。本書にはない話だが、数ヵ月前に、日本の信金がマネロンで検査をくらっており、北朝鮮企業への送金もあったもいうからお察しである。

制裁を実施した、でドヤった結果、でもやっぱり制裁には実効性がありませんでしたとなると、残るは物理的な制裁しか無くなる。なので戦争について語るには軍事を知らなくてはいけない、というのと同じくらい、制裁の実効性を知ることは今の時代大事な問題だと思うのだが、いかんせん制裁をかけている、という事実だけでそれ以上のインセンティブが政治家には不足しており、そのせいか興味を持つ向きが少ない。

北朝鮮 核の資金源:「国連捜査」秘録

北朝鮮 核の資金源:「国連捜査」秘録