宮下雄一郎『フランス再興と国際秩序の構想 第二次世界大戦期の政治と外交』

本書は、サントリー学芸賞(2017年)を受賞した。政治学を専門にする人間にとってはトップに属する権威を有しており、受賞者は錚々たる面々が並んでいる。基本的には本格的な研究書に贈られるものであり、本書は慶應大学に提出された博士論文をベースとしているらしい。多くの場合、研究者の著作は博士論文こそ最もよく練られたものと言われるが、多分に漏れず、かなり豊潤な研究内容が濃厚なまでに盛り込まれている。

 『フランス再興と国際秩序の構想 第二次世界大戦期の政治と外交』というタイトルだが、外交史の博士論文であるため、扱う時期は狭く、1940年~1945年の自由フランスがテーマである。すなわち、フランスがドイツに敗北してド・ゴールがロンドンに亡命した後、ヴィシー政権とは異なり、ドイツとの抗戦を続けた彼らがどのように第二次大戦において戦後国際秩序を構想し取り組んでいったのか、が主眼である。ゆえに、自由フランスが、あるいはその他の「フランス人」が、どのようにあの時代においてドイツと戦ったか、などは射程外である。外交史の、戦後構想に範囲を絞っており、それ以外はさらっとで簡単に済ませるので、ある程度、「それは分かってるよね」というスタンスがきつく、こちらの力量が足りないとすぐに置いてかれる可能性があることには気を付けなければならない。特に大量の人物名が出てくるので、私程度の生半可な知識だと直ぐに、あれ誰だっけこれ、と振り返り振り返り読み進めることになってしまう。

内容は以下の川嶋周一先生による書評に詳しい。 

【書評】宮下雄一郎著『フランス再興と国際秩序の構想』(勁草書房、2016年) | 政治外交検証 | 東京財団

さすがの川嶋先生(川嶋先生自体は、もう十数年後の独仏関係史を博論に書いている。これもめちゃくちゃ面白い)であるので、付記する情報は特にない。

川嶋先生が6~7章が白眉だと書いているが、個人的には5章のあたりも非常に面白かった。ド・ゴールは戦後フランス、あるいは戦後のヨーロッパ統合の文脈で圧倒的な存在感を示しているので、我々はド・ゴールのフランス、というのをさも当然のごとく、必然であったかのように語るが、彼が「フランス」の権力者として認められたのは薄氷の上を跳び跳ねるくらいの、多くの困難を乗り切った後のことだった。正統性の面ではヴィシー政権に勝てるはずもなく、また他の欧米列強から嫌われていたド・ゴールは自由フランスにおいてさえ、ダルランやジローといったライバルがいるなかでは簡単には認められなかった。戦局が変わり、ようやく国内における支持基盤が第5章になって固まり、さてようやく戦後構想について考える余裕が出てきた。じゃあどのような絵を描こうと、うんにゃらまんにゃらしているのが第6章である。中小国とのコミュニケーションを密にして、西ヨーロッパ統合の構想を抱き、戦後は大国協調にせんとする英米の流れに対して、フランスは、大国の一として、かつ中小国の代弁者として棹を差し、そして第7章にして、頓挫した。(後味の悪い「勝利」)

結びにおいて、本書が喝破したこととして、フランスの、ド・ゴール地域主権の考えが欧州統合に繋がった、とする一般的な意見に対し、むしろアメリカ主導の戦後の普遍的国際機構構想を前に挫折し、一旦は消え去ったものだったことを示したのだと挙げる。

しかしそれではあまりにもションボリだ。一方でその後、実際にはヨーロッパ統合は進んだ。川嶋先生も書く通り、単に一旦消え去ったのだと言っても、では戦後の統合には繋がったのか、全く断絶しているのか、西ヨーロッパ統合構想をどう評価すれば良いのか、もう少し先を見据えた指針が欲しかった。

そしてこのあと、ド・ゴール愛国主義的な姿勢によって超国家的な統合が否決されていく有り様が川嶋先生によって描かれるわけで、何とも皮肉である。

 https://www.jstage.jst.go.jp/article/kokusaiseiji1957/2008/152/2008_152_184/_pdf&ved=2ahUKEwiJwNixg7_ZAhUPObwKHa5vBwU4FBAWMAV6BAgAEAE&usg=AOvVaw0wsbj3OKDTQjPGkwbZMgeZ

 

 

フランス再興と国際秩序の構想: 第二次世界大戦期の政治と外交

フランス再興と国際秩序の構想: 第二次世界大戦期の政治と外交