小森晶『トレーダーは知っている』

タイトルが胡散臭くて、副題が「オプション取引で損をしない「法則」」となっている。きんざいのテキストなんだから当然なのだが、残念ながら本書を読んだところでそんな法則は載っていない。相場の見方とか、分析方法とかそんなものには触れるつもりも毛頭なく、オプション取引の入門について説明した後、本書を買った人間だけが見れるエクセルファイルを使ってオプショントレーディングのシミュレーションをしたり、ブラックショールズのモデルに基づいてボラティリティ金利を弄ってみたりする。

一方で、モデルの作り自体にはほとんど踏み込まない。変数が示されるだけであるので、その意味で本書は入門向けな気がしないでもない。しかしながら、金利オプションはレートが低いのでログノーマルではない、フォワードレートを掛けたノーマルボラティリティを使うという説明から、ぬるっと本書はSabrモデルについて述べるのだ。ここまでの説明のうちに、正規分布という言葉はどこにも出てこない。理論的な話には踏み込まずに、アップトゥデイトな議論をする、というある種無謀とも思えるアプローチをしており、大胆だなぁという感想を抱く。とは言え、細かな説明を諸々すっ飛ばしながら、最終型は、

(G-F)=α×E1×√D×F^β

η=ν×α×E2×√D

で、E1とE2の相関はρね、と言うのであるので、すごーく簡単というわけではない。ただそれぞれの変数を導くための数式は省かれている。そうしてボラティリティがストライクごとに異なるときの価格変化のイメージをつけやすくするのだ。

本当に入門的な部分のみ触れたい場合は、オプション取引の入門の部分だけでもタメにはなる。つまり、プット、コールから始まり、ブラックショールズの変数やグリークス、デルタニュートラル、スマイル等についての標準的な教科書的説明がなされている。調べてみると、案外オプションについての簡単な概要本は、何一つ数式の出てこないド初心者向けしかないので、このくらいでも有り難い。但し「はじめに」にて、オプションマーケットの暗中模索状態から色々シミュレートして全体像が見えてきたとある通り、実際に手を動かして見える箇所もあるだろうし、そこだけに留まるのも勿体無い気もする。

一つ、あえて言うなら、本書のターゲットはいったいどの層なのだろうか?(さすがに個人投資家ではないだろうし、大多数な銀行員でも無さそうだ)

 

トレーダーは知っている-オプション取引で損をしない「法則」-

トレーダーは知っている-オプション取引で損をしない「法則」-