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フォーリン・アフェアーズ 1月号

アメリカでトランプ大統領が就任してから一週間近く立つが、まだその全貌・思想は見えてこない。部分的には選挙戦通りに動き始めたのが分かるものの、では選挙戦の主張のうち、どこまでを実際に履行するのか、まだ知る由もない。いったいメキシコとの壁の費用の払い手はいるのだろうか??

その中僅かに見えてきているものとして、国際秩序に対する嫌悪が挙げられる。TPPNAFTAという経済的な多国間協調体制のみならず、EUやNATOのような、より政治的な体制にも舌鋒を繰り広げている。そして、一足先に体制からの"足抜け"を表明した英国のメイ首相とは、早々に会談を設定するという徹底ぶりである。

ヨーロッパでも体制を忌避する流れが起こりつつあるなか、秩序の担い手であったアメリカが拒否するとなると、第二次大戦以降から続いてきた国際協調の動きは途絶えてしまうのだろうか?『フォーリン・アフェアーズ 1月号』はまさしく、その点に大きくフォーカスを当てている。

ところで先日のエントリーで、雑誌『アステイオン』の良さについて語った。しかし、国際関係について日本語で読める、最も優れた雑誌は本誌『フォーリン・アフェアーズ』をおいて他にないだろう。英語版とは載っている記事がやや異なり、翻訳サイドの思惑が編纂に入ってきているのが余計だが、概ね優秀である。主に英米の研究者およびテーマによっては全世界の実務家が筆を執る本書は、アメリカという国がグローバルにコミットしていくその姿勢をも窺わせてくれよう。

さて話を戻して、アメリカの担うリベラルな国際秩序について。本誌の論者の殆どは、残念ながらリベラルな国際秩序が衰退していることを認める。但しスタンスは微妙に異なり、ロビン・ニブレットは世界大で「リベラル国家」対「反自由主義国家」(あるいはポピュリスト)の対立が起こっていることを訴える。一方でジョセフ・ナイは、さすがソフトパワー論者であり、あくまでアメリカ国内の問題とする。彼のソフトパワー論は、衰退するアメリカ(と言っても圧倒的優位にあったのだが)に対して、いやいやアメリカにはソフトパワーがあるから引き続き偉大なのだ、とアメリカへの誇りを感じさせるものだったが、本論では中国やロシアは(内心はさておき)秩序に真っ向から戦う存在ではないとして、ワシントンのポピュリスト政治こそ国際公共財を毀損し、結果としてアメリカも利益を損なわせるものだと主張する。引き続きハードパワーではない、国際秩序やネットワークを重視する。

面白かったのは、ナイと近しい意見を持ちながら、対立するようにも見えるコリ・シェイク(Kori Schake)の"Will Washington abandon the other? The false logic of retreat"。オバマ政権は対外関与を減らし、burden shiftingを進めていた。トランプ政権はこれを強化し、offshore balancing(ここでは、ミアシャイマーとウォルトの論考から「台頭する国家を牽制する役目を他の諸国が主導するように促す」ことだとする)まで進めるだろうと予想する。これに対し、Robert J. Lieber "Retreat and its consequence"からオバマ政権の撤退がアメリカのコストを増大させたと説いているとともに、Eliot A. Cohen "The Big Shock. The limit of soft power & the necessity of militaly force."から、軍事介入の有用性に言及する(副題のソフトパワーの限界、とはナイに対する何とも皮肉である)。ただオフショアバランシングを押していくことは、アメリカの同盟国が侵略国に宥和的になってしまうリスクもあるのだ。トランプ大統領は、オバマ政権のシリアに対する空爆を「ピンで刺す攻撃」だと揶揄して政治的な訴求を得たが、今や彼は、もっと柔軟な政治的アプローチを有していることを知っているはずだと締める。 

全く然りで、極論を言えばアメリカが守ってくれないなら対立する中国側につけばいいのだ。彼らも別の国際秩序を作るべく奔走しており、その流れに乗っかるだけでよい。それが不満なら必要に応じて同盟国を見捨てない努力をしなければならない。リベラルな秩序はゼロサムゲームではないので、別のアプローチが必要そうだが。。。

今のところ、トランプ外交はよく言われるレーガン外交よりも、ニクソンを思わせる部分もある。彼自身がMad man(ニクソンはMad man theory(狂人理論?)を核抑止の論理に適用した) であることもあるが、70年代の三角外交にも見えてきそうだからだ。ロシアと近づき、中国と対立するので、当時とは逆であるが。その場合、当時は中ソの対立があったことから米中vsソ連の構図を作り出せたが、今は中露関係に問題は感じさせないので、それだけでは中国との宥和はまだ難しそうだ。むしろティラーソン国務長官マティス国防長官はどんどん中国を煽りそうにも思える。となると、中国に対立できる同盟国のプレゼンスは上がるだろう。同盟国は裏切る覚悟を見せることで得られるメリットはあるかもしれない。その際に最後に米国と上手くやれた場合の日本は、案外非国際秩序サイドなのかもしれない。

 

フォーリン・アフェアーズ・リポート2017年1月号 (フォーリン・アフェアーズ・レポート)

フォーリン・アフェアーズ・リポート2017年1月号 (フォーリン・アフェアーズ・レポート)