筒井清忠編『昭和史講義』

 かなり気合の入った執筆陣による、戦間期についての論文集。

研究の最前線にいる研究者が、自身の専門について最先端の内容を盛り込んでいるため、生半可な気持ちでは読めないが、高校日本史程度の前提知識があれば、「あの時習った話は、最新の研究ではこうなっていたのか」という発見があるのではないか。

しかし、あまり強い編集方針は無かったのだろうか、注の付け方や、そもそもの書きぶりに差異が大きく見られる。「なるほど、これは最新の研究ではこうなっていたのか」、とせっかく興味を示しても、章によってはそれがどの研究に基づいた記述であるのかが明確でない場合がある。少し残念である。参考文献を逐一読み返すしかなくなってしまっている。

書きぶりについては、やはり面白いのは筒井先生の箇所である。二・二六事件関連の研究書はいくつか出されているが、いずれも白眉と言われるものであり、歴史の潮流からどう位置づけられるのか、がここまで描ける日本近代史家は稀なのではないか。それぞれの論文が高品質ではあるため、逆に言えば、この時代を通底するような観点はなく、筒井先生の手による、より広範な歴史研究が見てみたい気もする。

 

以下に、本書にて「最新の研究では」やそれに準ずる表現があった箇所を非常にざっくり抜き出してみる。(網羅するつもりはない。)

・渡邉公太/ワシントン体制…「ワシントン体制」という概念で議論することに疑問。幣原は満州安定化を模索。「英米協調主義」と言われる幣原は、対英では不適。九カ国条約の無力化、国内革新勢力の台頭、幣原のパーソナリティから幣原外交は潰えた。

・小山俊樹/大衆デモクラシー…?

・家近亮子/北伐&張作霖爆殺…昭和天皇「協調外交」が基本。田中義一、蒋との意識のずれが第二次、第三次山東出兵へ。

・畑野勇/ロンドン軍縮条約…個別条約批判から対英米協調外交批判へ。昭和天皇条約賛成派。締結のため、新聞世論に依存

・等松春夫/満州事変…?

・柴田紳一/天皇機関説…?

筒井清忠/二・二六…?(青年将校を「改造主義派」と「天皇主義派」に分類。改造派による上部工作、木戸幸一の対処案が重要であることを解明)

・岩谷將/盧溝橋…?

戸部良一/日中戦争…?

・花田智之/ノモンハン…双方とも大勢の死傷者数。ソ連スパイ説(確証に至らず)。共産党は西方攻勢に先んじたノモンハンの勝利を重要視。四国京証構想の歴史的経緯や実現可能性。日ソ中立条約←中華民国と日本が正常な国交を回復するまでは不可侵条約無理。

・武田知己/三国同盟…同盟の実質の欠如と激しい相互不信

・牧野邦明/近衛新体制…?(個人的にはこの章は気になったので、機会があれば別でまとめるかも)

・森山優/開戦へ…須藤眞志以降、大筋を書き換える外交史の著作なし。なぜ全面禁輸になったのか、いまだに議論。東郷の強硬態度・叱責は批判が多いが、その後も乙案。ハル・実は直前まで対日妥協を模索。直前で暫定協定案提示あきらめ。諸説さまざま。陰謀なし。

・鈴木多聞/終戦…降伏は原爆orソ連。御前会議の影響。ポツダム宣言早い受諾。天皇降伏1.日本民族亡び、2.三種の神器の移動間に合わず。対軍不信。日本 ソ連参戦認識も、時期読めず。

・井口治夫/占領…?

 

ざっとまとめ過ぎたので漏れはあるかもしれない。にしても、研究動向をきちんと書いてくれてあるものと、そうでないものの差がはっきり分かれている感じは、ある程度読み取れるかと。

昭和史講義: 最新研究で見る戦争への道 (ちくま新書 1136)

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