読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

石動竜仁『安全保障入門』

 twitterで有名なdragonerさんがついに安全保障の入門書を新書で出した。

そもそもの彼の印象としては、ミリタリー界隈の人。私はあまり大きく専門が被る印象ではなく、安全保障「も」やっている人、というイメージ。コミケ90にて、同人誌『シン・ゴジラから見る日本の危機管理体制』を買おうと思っていたところ、売り切れの札を出してブースでボンヤリしている氏を見るに留まってしまい、仕方なく本書を本屋で購入。しかし同人誌の委託販売をやってくれたものだから、両方とも購入してしまう羽目に。悔しい。

で本書、『安全保障入門』。しかし、安全保障を入門するとは難しい。明確な学問領域が確立していない、というか、研究者は自分たちのプレゼンスを高めるため、逆に広げている節すらある。「新しい安全保障」などと称する概念を作り上げ、経済、人間、環境、といった大戦後に出てきたような政治的な話題を「リスク」であると喧伝し、そしてもはや何が安全保障なのかよく分からなくなってしまった。これではウルリッヒ・ベックの思う壺ではないか!(拡張する「安全保障」概念については、Barry Buzan 1991などが定番だろうか。北米系の国際関係論(IR)よりも英国系、欧州系のIRが好む論点だろう)

ではそういった「新しい」安全保障に対して、それぞれに研究は深まっているかというと、いまいちよく分からない。個別研究は論文誌を読むとちょこちょこと積み上げられているようにも思えるが、広義の安全保障とは、広告代理店的な、名前を作ることで存在をアピールしようとする色が強いように感じてしまう。

 

前段が長くなってしまった。本書は以下の通りの章立てになっている。標準的な安全保障学入門(例えば武田康裕編)とあまり性質に違いはない。

第1章 安全保障の論理

第2章 戦争の論理

第3章 平和の論理

第4章 世界の諸問題

第5章 日本の安全保障問題

いずれの章でも、それぞれについて定義と、その領域における様々なトピックスが羅列される。

トピックスは網羅されている訳ではないが、それでも非常に教科書的であることは、新書サイズで安全保障について語った書籍が少ない現状において褒められたことかもしれない。一方で、トピックスは羅列されるに留まり、一つ一つの概念を掘り下げることは殆どない。だからこそ、例えば自分の詳しくない「新しい」安全保障の領域は紋切り型になってしまう。後半部分における「日本の安全保障問題」はというと、結局伝統的な安全保障の実例しか出ておらず、これでは「新しい」安全保障について言及した意味がない。また、歴史は苦手なのだろう。その叙述は非専門家に相応しい浅さしかなく、現代的な示唆も薄い。(細かな論点で言いたいことはいくつかあるが、長くなりすぎるのでここでは踏み込まない)

結果、本書の強みがいまいち見えない。一番の難点は、問題意識の薄さだろう。言いたいことが見えないのである。

カバーに「識者それぞれが異なる見解を表明している現状は、安全保障を一層分かりにくいものにしてしまっています。そこで本書では、それぞれの立場がいかなる論理で安全保守概念を形づくっているのかという基礎知識を提供したい」とあるが、本書はこの問いに答えていない。まえがきに、言説に差異が見られることについて、「国際法学、軍事学、平和学など、それぞれの論者がバックボーンとして持っている学問領域の違いに由来する面が大きい」と書いており、第一章が「国際法学が議論してきた安全保障」、第二章が「軍事学的な観点から戦争を」、第三章が「平和学が提唱する平和」について語るとあるが、異なる観点を異なる学問領域から説明したって、「識者それぞれが異なる見解を表明している現状」の追認にしかならない。そもそも安全保障における様々な議論とは、「国際法学」ではなく、「国際関係論」(日本では「国際政治学」)だろう。国際関係論内での議論の差異に触れず、「基礎知識」と称して論点を羅列するのでは、意図的に問いに答えてないのでは、という気すらしてくる。そもそも、国際法学の下にIRが入っているとは、この人はいったいどの国で学問を学んだ人なのだろうか?? ?

何にせよ、わざわざ読むならば、も少し金を出して、『安全保障学入門』とか読んだ方が安全・安心。ベストは高坂正堯『国際政治』(1966)だが、いかんせんやや古いので興味のある人にしか響かないか。

 

安全保障入門 (星海社新書)

安全保障入門 (星海社新書)

 

  

新訂第4版 安全保障学入門

新訂第4版 安全保障学入門

 

 

 

国際政治―恐怖と希望 (中公新書 (108))

国際政治―恐怖と希望 (中公新書 (108))