読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

『アステイオン』84号

雑誌業界は、衰退の一途を辿っているとは言え、まだまだ世の中にはとてつもない数の雑誌が出回っている。バカみたいに種類があるのにも関わらず、そして興味のある向きは多いにも関わらず、国際政治について手厚くカバーされた雑誌は思いの外、少ない。イデオロギー臭のきついもの、あるいはミリタリーファン向けの兵器中心のものを除くと、ほぼ選択肢はないのが実情であろう。唯一の外交専門誌である『外交』(旧『外交フォーラム』)は、悪くはないがやや紙幅が薄い。

その中で、ここまで一昔前の「教養」の薫り漂う雑誌とは稀有な存在である。本書は、哲学者・山崎正和を中心に、中央公論編集者として名を馳せた粕谷一希を編集長として、サントリー文化財団のスポンサードで作られている。ダニエル・ベルも編集に名を連ねるのだから、その執筆陣の豪華さには舌を巻く。84号では、創刊当時のことを山崎正和が振り返りながらインタビューに答えている。

いつでも国際政治がテーマの中心となる訳ではない。今のアステイオン編集委員は、田所昌幸を編集長として、池内恵苅部直張競細谷雄一、待鳥聡史が編集委員であるのだから、面子はかなり国際政治に寄っている。とは言え、学問としての国際政治的なアプローチの号は少なく、ここのところは”グローバル”を意識したテーマが多くなっている。(参考:83号「マルティプル・ジャパン」、82号「世界言語としての英語」)

かつてと比べて、より人文科学的な傾向が薄くなったのは、単に編集委員の好みなのか、あるいは時代の要請なのか。未だにハイレベルな紙面が続いているが、もし後者であるのならば、その余裕のない時代には思うところがないわけではない。84号は「帝国の崩壊と呪縛」がテーマであり、中東のテロリズムに端を発した論考ばかりがずらりと並ぶ。全体的に読み応えがあったが、これが時代の要請に反応しすぎた結果なのだとしたら、屈したことになる。とは言え、アステイオンの面白さは、必ずしも一筋縄ではいかないところにある。

ジル・ケペル「欧州ホームグロウンテロの背景」

池田明史「溶解する中東の国家、拡散する脅威」

小泉悠「ロシアにとっての中東」

廣瀬陽子「帝国の落とし子、未承認国家」

岡本隆司清朝の崩潰と中国の近代化」

齊藤茂雄「古代トルコ系遊牧民の広域秩序」

森井裕一「国民国家の試練─難民問題に苦悩するドイツ─」

 

特集はこのラインナップ。まさか清朝や、トルコ系遊牧民の話題まで広がるとは思わまい。ここがアステイオンの良さだ。今後も政治学の論考が読みたいが、しかし政治に寄りすぎない教養書の迫力を出していてもらいたい。

 

アステイオン84 【特集】帝国の崩壊と呪縛

アステイオン84 【特集】帝国の崩壊と呪縛